博士の頭の中の消しゴム
このタイトルはむろん記憶喪失大ヒット映画『わたしの頭の中の消しゴム』と『博士の愛した数式』の本歌取り。「博士」とはむろん私のことであーる。
話は今朝にさかのぼる。
「ぴよ! ぴよ!」(訳 今朝はインゲンの差入れがないぞ、早く表に出せ! )というごろうちゃんの朝鳴きにどつかれるように、わたくしはベッドから起きあがった。
そして、今やっている研究関係の書類をベッドと壁の間からひきあげて、ごろうちゃんの部屋に向かった(寝る前に読んでいた本や書類は、朝方になるとだいたいここに落ち込んでいる)。
ごろうちゃんをだして、朝ごはんを一緒に食べて、メール・チェックをしてのち、さあ、お仕事と、パソコンの前にすわる。
具体的には先ほどベッドのすきまからもってきた書類に入れた訂正をパソコンにうちこもうとした。すると、あの二階からもってきた書類がない。あたりを探し回るも、やはりない。
この捜索過程において、自然と床の上にある書類を片付ける形になった。そうなると目的物ではないものの、同じようにかつて紛失したと思っていた数々の書類がみつかる。また、途中までチェックして、チェック時点にボールペンをはさんだまま、チェックのとまったチベット語史料が複数発見される。
「あーこのボールペン探していたんだ。チェックの続きもやらなきゃなあ」などと詠嘆しつつも、捜索はつづく。
みつからない。ごろうちゃんをカゴから出した時にカゴの周辺においたのかとなんども小鳥部屋も見るが、やはりない。
ついに、ダンナが出かけるとき自分の書類とまちがってもっていたに違いない、と思って諦めようと思った矢先(ちなみにここまでで三時間経過)、ふと
「人を疑う前に自分を疑え」という万古の真理とともに
「まさかあそこでは」という思いがよぎる。
「まさかね~、たしかに手にとって階下までもってきたもんね」と自分に言い訳をしつつも、体は二階へ自然とむかう。
で、ありましたよ、書類。
ベッドと壁の間に。
こりゃ、単なる物忘れとか認知症より、はるかに始末がわるい。アイデンティティの崩壊だよ。してもいないことをしてると思いこんでるのだから。これが悪事の記憶だったら、サイコパスだよ。
動揺をしずめるため、書類を手にとりパソコンの前につく。
そうだ、さっき久しぶりにみつかったボールペンでもメモに使うか、と見回すが、ない。短い再会であった。彼女(ボールペンに性別をつけてみました)はふたたび無明の闇に消えていったのである。
わがやのなくしものはこうして、カオスの中から「かつ消えかつ浮かびて、久しくとどまりたるためしなし」。
最後は『方丈記』でまとめてみました。
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